第95回手塚賞で準入選を受賞。
チッチーズ先生の「DANNY’s RADIO」が特別読切で本誌に掲載されましたよ。
今この時代にもこんな風景の中に生きている人たちはいるんだよ。
「悲しみの数より笑えりゃそれは喜劇さ」
ラジオ放送を士気高揚に使おうってことなんだね。
(誰もそこまで言ってないだろヒドイなw)
もう一作は「ライフイズビューティフル」(1997年)
こちらもカンヌ、アカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞。ロベルト・ベニーニ監督・脚本・主演作品で、ベニーニさんは本業はコメディアンじゃなかったかな?
ベニーニ演ずる主人公はとってもユーモアに溢れた陽気な男。序盤はコメディ映画のノリで楽しい雰囲気。やがて女性と出会い結婚、そして息子が生まれます。そこに戦争の影が。家族は収容所に送られ母とは別々に。幼い息子を怯えさせまいと父はユーモアたっぷりのウソをつく。その様子は同じユーモアなのに切ないんですよね。
作者さんの紹介ページ。
帽子をかぶったワンちゃんの自画像カワイイねw
帽子をかぶったワンちゃんの自画像カワイイねw
■
物語はいつかどこかのこと。少年ランチョのナレーションから始まっているね。
鳩のシルエットが物語全体への演出に
少しばかりの悲劇ー。
ランチョが語る男、ダニーのお話だね。
生活の中でラジオの存在が大きかった時代。
そんな彼らに迫るのは戦争の惨禍。
テーマはすごく重いよね。けど、あたたかみのある作画と合わさってとっても味のある作品になってるよ。
掲載時期が良かったと思うよ。夏休みが始まって8月っていうと各地でお祭りがあったりそうこうしているうちにお盆が来て…。そうすれば戦争についての話題に多少なりとも触れるもの。いろいろ覚えたり考えたりしようとするとっかかりにうってつけの作品じゃないかなあ。
記事ははだいぶあとになったけどね(汗)
爆撃を受けた市街の様子。冒頭、ランチョが駆けていた街並みがこんなに…。遠くの空が見えてるのが切ないね。
今この時代にもこんな風景の中に生きている人たちはいるんだよ。
生き残った人々に覆い被さる絶望の影。うちのめされたおじいさんが絵を燃やすシーンは読んでいて苦しいね。
戦争相手を憎んだりとかの描写は意図して無くしてあるんだよね、たぶん。
周りの人をなくしてる境遇はダニーも同じなんだよね。遺影に語りかけてるのは自分で自分を励ましてるんじゃないのかな。
遺影の主はランチョの父親、ロバート。ダニーとロバートは親友同士で仕事でもトークの聞き手だった。
このあとの回想への繋ぎかたはムダなくスムーズ。全体的にも構成にムダがないみたい。
父を亡くしたランチョを励ますためにおどけてみせるダニー。いいヤツだねw
笑い声に包まれてるけど涙をこらえてる二人。そう思うと泣けてもくる。
良い喜劇には少しばかりの悲しい場面が付きもの。逆もまた然りで良い悲劇に少しの喜びがある、とダニー。
「悲しみの数より笑えりゃそれは喜劇さ」
いいセリフだね。悲しみを乗り越えようとすること。儚げで、でも強さがある言葉だね。
笑う二人の上に飛ぶ鳥の影。不穏の予感…。
■
戦争が続くなか軍は力を増してきて、気に入らない者はすぐ処分…こういう話は聞くよね、実際にも。
そんな時ラジオ局に軍が押しかけてきたよ。
ラジオ放送を士気高揚に使おうってことなんだね。
こういうのも実際に今あることだよね。テレビ放送だけどわりと近くの国で。
軍の上官らしき人は細かい線が重々しく書きこんであって増した力の威圧感が伝わってくるよう。
「どんな時代だろうが俺はコメディアンでありてぇのさ」
依頼を断ったダニーの表情は明るく描いてあって上官と対照的だね。
一見、穏やかな表情だけどどこか影のある…死の覚悟を秘めた表情じゃないのかなあ。
ダニーは上官のやつにぶん殴られたうえ、ラジオ局の看板を壊されちゃった。
殺されなくてまだマシだったかな。
とんだフヌケだ!なんて言われちゃってたし、そもそもダニーは体が弱くて徴兵されなかったって話だからね。殺すにも値しないって思われたのかも。
自分を心配して集まったみんなのその表情を見たダニー。笑ってねぇな…ってつぶやいたね。
ダニーズレディオ特別版を放送するって言い出したよ。殴られて頭がどうかしたのか!って様子。
(誰もそこまで言ってないだろヒドイなw)
ダニーがしたいことはみんなをちょっと愉快にしてやろうって程度のこと!
でもそのことが「どれだけスゲェか」。
ダニーの子供の時の経験で知ってたんだね。
ラクガキみたいなイメージを散りばめてあってファンシーな1ページ。
作品全体の雰囲気とはここだけガラッと違うよね。パッと明るく振る舞う様子を独自のセンスで表現していて好印象。「ちょっと」が「スゲェ」を指でも示してるんだね。
戦地の子供に笑い声を。そう言ってマルコじいちゃんを説得して一緒に告知のビラを作ってもらったよ。
もっとビラを刷ろうと爆撃をうけたアトリエ跡に来たマルコじいちゃん。画材を探しに来たところに悲劇が。
じいちゃんを襲う爆発がショッキングなシーンだよね。何を思う間もなく吹き飛んでいる様子がまた…。飼っていた猫がいたかも?と思ってそれを夢中で追いかけちゃったからって理由が切ない。
自分の体調を心配してくれたマルコじいちゃんが先に死んじゃって、体の弱い自分がまた残った。ダニーの悲しみはいかばかりだろう。
ダニーも吐血を…。迫る死期にあらためて覚悟を決めたダニーとその様子を影で見てたランチョ。悲しい場面だねえ。
それぞれが涙をこらえている様子。泣いちゃうよホント。
ランチョがダダをこねてるのは…別れを予感してるからだよね。
連れてかれようとしてるのは確信があるから。
「楽しんでくるぜ!」
ダニーの命をかけたラジオが始まる!
ダニーの声は電波に乗って町中のラジオに届くー。夜明けの太陽に照らされたみたいにまばゆいよね。
光と風と雲の流れ、そしてダニーの声。その場に立った自分の全身の感覚を想像してほしい一コマだよ。
ラジオ放送が始まって街の人たちは大喜び。
でも軍隊でも聞こえちゃってるから…。
反逆のおそれありって感じでダニーの所に向かってっちゃった!
ラジオからはダニーが「バクチですって全裸で帰ることになった時の話」が。
いつだってアイツは楽しむつもりだ!
生き様って言葉は軍の上官も言ってたね。そっちで言われたこととは別のかたちで見せたんだね、生き様ってやつを!
テーブルの上にはランチョの父親の遺影とマルコじいちゃんが描いた猫の絵。楽しんでるダニーの様子とはうらはらに読んでるこっちはせつなくてたまらなくなったよ。
ラジオを聴いたみんなの笑い声がどんどん大きくなって…ランチョは「ちょっと愉快にしてくれることがどれだけスゲェか」をつかんだんだよね。
ラジオを聴いて笑う人々。そしてランチョはダニーのその生き様を見て表情を輝かせてるんだね。画調の明るさからは思いがけないほど心を強く揺さぶられたよ。
ラジオは銃声で幕を閉じた。
あっけなさがなんかしみる…。
それでも「喜劇」。笑うほうが多かったっていうダニーなりの勝利宣言じゃないのかな。
■
ダニーの死に対してのランチョ少年、顔を伏せ気味で表情は見えないけど我慢して笑おうとしてるみたいだね。
時は過ぎ戦争は終わり…ランチョはコメディアンになったんだね。泣くのを我慢していたのはダニーの遺志を継ぐことのあらわれだったんだろうね。
成長したランチョには娘が。笑ってるよね。今ではありふれた光景。それだけなのにジーンとするなあ。
悲劇はひとつまみ。つまりその後はたくさんの喜びが。希望を感じさせるエピローグだね。
ラジオ放送が始まったところの見開きにははっきり白いハトが描かれていたね。ハトは言わずもがな平和の象徴。
大層な演説も宣戦布告もない。ダニーの生き様を描いた作品。でもたしかに平和への願いを感じさせる作品だったよね。
準入選なのはたぶん絵の拙さが少しばかりあるからだろうけど、この時じゃなきゃ描けない絵でもある。それが作品の味になってる意味でたぶん作品としては賞以上のものだと思うよ。
■
「DANNY’s RADIO」に感動できたあなたにオススメしたい映画を二本ご紹介。
どちらも20年前前後に制作。テレビ地上波でも放送したこともある有名な作品ですが、まだご覧になっていないかたはぜひ。二本とも戦争について考える機会を与えてくれる作品です。
■
■
「戦場のピアニスト」(2002年)
カンヌでパルムドール、アカデミー賞で3部門を受賞したロマン・ポランスキー監督の名作です。
オススメしておきながら学生時代に見たらトラウマになるような場面も多いので大人になってから見てねって言わなきゃならない内容。詳しく語るまでもないほど有名な映画です。
主人公のシュピルマンはラジオでピアノ曲を演奏するピアニスト。つまりダニーとラジオつながり。ピアニストだったことでいろんな人に助けられて戦争を生き延びていきます。
映画館の大スクリーンに映されていると意識すれば見方が深まりますよ。あとクラシックのピアノ曲をあまり知らない人もこの作品で興味をもてると思います。それはそれで不幸かもしれませんけども。
もう一作は「ライフイズビューティフル」(1997年)
こちらもカンヌ、アカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞。ロベルト・ベニーニ監督・脚本・主演作品で、ベニーニさんは本業はコメディアンじゃなかったかな?
ベニーニ演ずる主人公はとってもユーモアに溢れた陽気な男。序盤はコメディ映画のノリで楽しい雰囲気。やがて女性と出会い結婚、そして息子が生まれます。そこに戦争の影が。家族は収容所に送られ母とは別々に。幼い息子を怯えさせまいと父はユーモアたっぷりのウソをつく。その様子は同じユーモアなのに切ないんですよね。
最期の時までおどけてみせるのに泣き、ラストでまた別の気持ちで泣きと素晴らしい、まさにビューティフルな映画です。
ダニーこそウソはつきませんでしたが暗く沈む心を笑いで救おうとするところにつながるものがあります。
一つの漫画作品と二本の映画。どれもご覧になれば三者三様に良さが際立つのではと思います。